2016・2017年度活動方針

1.    子どもたちの今と教育・文化状況

 

 戦後70年となった2015年に、多数の市民・学生・研究者などの反対の声にも関わらず、安全保障関連法が成立し、20163月から施行となった。「戦争のできる国」への舵切りを阻止できなかったことは、実に残念である。本会も201510月に「安全保障関連法成立に反対する」アピールを理事会で採択し、機関誌『子どもの本棚』とホームページにて公表した。これはこの間の国の動きに対して大きな危惧を抱いたが故で、子どもたちの未来に責任を持つ大人として、これからも活動を続ける必要を感じている。

 

 さらに子どもたちの教育にも重大な変化があり、特に道徳が教科となって評価もされることは、あたかも戦前の「修身」復活を想起させる改悪であり、愛国心や規範意識がどのように教え込まれていくのか不安になる。また18歳からの選挙権に伴って、これからどのような主権者教育が行われるのかに関しても、非常に重要な問題として関心を持っていきたい。

 

 一方、日本の対GDP比公教育支出が相変わらすOECD中最下位レベルにあり、それを私支出が補っている事実は、教育格差の大きな要因の一つとして注目したい(「図表でみる教育ーOECD https://www.oecd.org/edu/)。本会機関誌でも特集で取り上げたように、今、社会はますます分断化され、特に子どもの貧困の問題は切実である。どの子にも等しく与えられるべき教育の機会が、貧困によって奪われるケースが後を絶たない。貧困の連鎖によって、過酷な格差社会が再生産されている現実にどう対処すべきか、知恵を結集していきたい。

 

 東日本大震災・福島原発事故は5年目を迎え、復興の進んでいるところもあるが、一方で取り残されている地域や人々もまだまだ多いと聞く。加えて今年の4月には予想を超える地震活動が九州を襲い、あらためて「地震列島」であることを痛感させられるとともに、安易な原発再稼働に怒りを覚えることとなった。本会では引き続き全国大会などの催事に、これらの問題に目を向ける機会を作り、考えていきたいと考える。

 

 

 

2.    出版状況

 

ここ10年間の総出版点数は年間8万点前後で推移しているものの、児童書の出版点数は微減傾向にある。

 

児童書では自然科学・社会科学などのノンフィクションや写真絵本などに収穫が多いが、反面創作児童文学では息の長い作品が出づらい状況が顕著になっている。近年障害を持った子どもや家族を描いた児童文学作品に秀作がいくつかあったことが喜ばしい。小学生向けぺーパーバック仕様のエンターテイメントが増えているだけでなく、ヤングアダルト向けでも大手出版社が次々とライトノベル風新レーベルを立ち上げ、大学生や大人をも魅了している流れをどう捉えるべきだろうか。

 

 

 

3.    読書環境

 

(1)読書運動の経過

 

 本会は1967年に設立され、以来子どもの本と読書運動に関わる諸団体と連携・協力しながら、子どもの本と読書教育の研究を行い、読書環境を整備するための運動を行ってきた。

 

 本会機関誌『子どもの本棚』零号は、1969年全国子どもの本と文化講座にてガリ版刷りで発行され、2016年5月号で通巻571号を数える。子どもと本に関わる読者から、特集・新刊案内などが好評を得ている。

 

2000年の「子ども読書年」以降、広汎な読書推進運動が功を奏し、広く読書の意義が認知され、子どもたちの読書離れに一定の歯止めがかかってきたと言える。一方で、本来個人的主体的営みである読書が、学力向上の手段としてのみ捉えられるという危険性、さらに歴史教育・道徳などに、行政の恣意的な選択による読書の強制が起こる可能性も考えられ、読書推進が政・官主導で進められることの危うさを感じる。 

 

 

 

(2)読書運動の課題

 

 最近のもっとも大きな動きは学校図書館を巡るもので、2014年6月、学校図書館法が改正され、長年の懸案事項であった学校司書が法文に明記された。しかし設置は自治体の努力義務とされ、財政根拠を欠くことから、今後どのような形で学校司書配置が進むのか大いに危惧される。文科省はこの法改正にともない「学校図書館担当職員の役割及びその資質の向上に関する調査研究協力者会議」(20138月~20143月)および「学校図書館の整備充実に関する調査研究協力者会議」(20158月~)を開催、報告書および議事録が公開されている。また学校図書館に関する悉皆調査の最新は平成26年度調査の結果(20156月公表)であり、12学級以上の司書教諭発令は小中学校ともにほぼ100%である一方、学校司書配置は小学校54%、中学校53%、高校64%となっている。また「学校図書館図書整備5カ年計画継続・拡充のための集い」なども活発に行われ、行政レベルでの動きに注視する必要がある。主体的能動的な学びの実践が現場の努力によって根付きつつあり、学校図書館の授業での活用の広がりに一層期待したい。

 

 さらに2016年からの障害者差別解消法施行にともない、公共図書館や学校図書館では「合理的配慮」が義務となった。障害の有無に関係なく誰もが読書に親しめる環境づくりと実践を一層積極的に推進していきたい。

 

 地域の読書活動の拠点である公共図書館は、「ツタヤ図書館」問題を皮切りに指定管理者制度に関して大きく揺れた。これらについては田井氏、塩見氏、松岡氏などの論考およびミニパンフ『「ツタヤ図書館」の“今”』(図書館友の会連絡会発行)などが参考になる。公立図書館の指定管理者制度導入や業務の民間委託が加速化される状況があり、厳しい条件下での労働を余儀なくされている図書館職員の問題について、市民が積極的に学び考え、意思を示す必要がある。

 

現代社会は高度に発達した情報化社会である。生涯にわたって学び続けることが期待され要求される現代こそ、情報拠点としての公共図書館・学校図書館の果たす役割は非常に大きいと言える。多様で豊かな出版文化と子どもたちの読書の自由を守るために、活動を継続発展させるとともに、多方面との協力体制を強化したい。

 

 

 

4.私たちの取り組みとこれからへ向けて

 

 本会は、2017年に設立50年を迎える。これまで子どもの本の作家、評論家、研究者、編集者、教師、図書館員、親子読書・地域文庫の推進者、読書ボランティア等、多くの先達に導かれてここまで続けてこられたことにまず感謝したい。このような多彩な人々が立場を超えて参加している会の特徴を改めて見つめ直し、会員相互の交流の機会をこれまで以上に積極的に持ち、なおかつ社会の動きに対しても果敢に行動・意思表示できるように努めていきたい。子どもを取り巻く社会状況の深刻な変化と教育行政の今後は予断を許さない状況にあり、会員相互の交流と実践の共有、問題意識を共有できる他の団体との積極的な連携・交流を図っていくことが重要である。子どもの本に関わるということは、とりもなおさず、より豊かで平和な未来を創造することに他ならず、私たちは今一度、なぜ子どもの本に関わるのかを真剣に問い直し、行動していきたい。

 

 本会の充実と発展のためには、東京周辺で開催されている集会・研究部会だけでなく地方での会の開催や地方在住の会員の理事会への参加などを推進する。また学生など若い人の入会を進めるためには、機関誌の充実、ホームページの機能拡張、会費の見直しなどを検討していく必要がある。 

 

 

(1)機関誌・出版活動

 

 機関誌『子どもの本棚』は本会の活動を内外に示す重要な情報発信の手段ととらえ、これまで通り毎月1回の発行とし、内容の充実とともに会員の情報交換や交流をさらにはかる。新刊紹介、今月の書評・複眼書評などの書評コーナーのほか、出版社や書き手からの発信など子どもの本の情報を多面的に読者にとどけたい。また、機関誌のもう一方の柱である特集についても、子どもと子どもの本に関わる“いま”を考察し、会員の活動にプラスとなるような内容を企画し読者とともに考える機会としたい。

 

出版では、最近5年間に機関誌で発表された新刊紹介・書評のなかから80編ほどを選んでセレクト集としてブックリストの形で冊子にまとめ、会員の活動の成果として出版し、読書活動のための参考資料として提供したい。

 

 

(2)研究活動

 

○自主的、継続的研究活動:会員個人が実践と研究を積み上げていくことを基本とし、会員相互の交流により、更なる発展と充実を図りたい。東京周辺の会員を中心に絵本、児童文学、科学、ノンフィクション、マンガ、読書理論、学校図書館、障害と本の研究部があるが、幼年文学を復活させるのが急務である。各地でも会員を中心とした継続的な研究活動が行われており、広く会員の研究情報を拾い、発表・交流する場をつくっていきたい。

 

○会員研修会:例年同様、本会の目的である「児童図書の普及と向上」に益すると同時に、現在の読書活動の現場で必要とされているテマを選び、学び合いの場として年1回以上開催していく。2016年度は、2017226日に国立オリンピック記念青少年総合センター(東京)で予定しているが、2017年度は東京以外の開催も検討する。

 

 

(3)全国大会

 

 2014年は全国講座を滋賀県大津市で、研究集会を東京で行ったが、2015年は第47回全国大会と名称を改め、全国講座と研究集会の内容を併せ持つ新しい大会として東京にて開催した。全国大会の持ち方に際しては本会理事会や実行委員会での様々な議論を経て、地方開催の可能性も視野に置きつつ、2016年・2017年は東京での大会を準備中である。2018年以降については、全国大会の地方開催などにも取り組みたいと考えるが、そのためには2年ほどの準備を要する。

 

 また、全国大会ではないが、各地域での活発で優れた活動に学ぶ機会として、地方での研修会を新事業として考えている。その一環として2016年秋に、東北への研修旅行を企画中である。

 

 

(4)子どもの本の学校

 

 会員を中心とした講師による5回から10回の講座を行ってきた。2014年度の大幅な赤字を受け、多摩校では2015年度は10回の講座を8回に減らしたが、参加者の減少(あるいは横ばい状況)、赤字の問題は解消されていない。しかし、学校教員、学校図書館・公共図書館関係者、読書ボランティア、長く子どもの本に携わる人々に学びあう場を提供し続けているという意義は大きい。本会の存在と活動内容を知ってもらう場としても、みなと校、多摩校は新たな形式を探りつつ継続したい。

 

  

(5)選定委員会

 

 毎月2回、新刊児童書の選定を行い、機関誌『子どもの本棚』で新刊紹介、選定リストを公表している。本会は「子どもの本を選ぶ視点」を大切にしつつ、価値の多様性を認め合い選定していく。

 

 

(6)学校図書館のつどい

 

 2014年の「第19回」は「学校図書館は学校教育のインフラ」をテーマに高鷲忠美氏による講演、また翌年の「第20回」では「本が読者に届くまで」のテーマで藤坂康司氏による講演を行った。「つどい」の後半は参加者全員が発言する機会を持てるようにグループに分かれて話し合う「ワークショップ」を企画した。情報交換、意見交換がよりやりやすくなり参加者には好評である。2015年から親子読書地域文庫全国連絡会は共催ではなく後援団体として協力を得ている。今後も学校図書館の課題をベースに社会情勢を視野に入れ、会員が自ら学べる場として「つどい」を継続したい。

 

 

(7)他団体との連携・協力

 

 本会は、「国際子ども図書館を考える全国連絡会」「読書推進運動協議会」「学校図書館整備推進会議」等の読書活動関係諸団体にも参画し、「学校図書館法の改正」、「学校図書館整備計画の継続」などの社会的な活動も継続して行ってきた。これらの会に留まらずに広く関係諸団体と積極的に交流を図り、連携を強化していきたい。

 

 

(8)組織の確立

 

 新しい会員を迎え、生き生きとした活動を広げるためには、各地の会員との交流を密にすることが必要である。本会を知らない人へのPRの機会として、2016年4月より新たなホームページを開設し、機能の充実を図りつつある。組織の運営課題としては、メールなども活用して地方からの提案を柔軟に取り入れ、コンパクトで機能的な運営を心がけたい。

 

 

(9)50周年記念事業

 

 2017年は本会設立50周年の節目の年である。そこで「日本子どもの本研究会賞」の創設、50周年記念誌の刊行など、いくつかの事業を企画・準備中である。会員の支援を得て記念事業を成功させ、本会の一層の発展への足がかりとしたい。