第3回作品賞受賞作を紹介します

ソロモンの白いキツネ

ジャッキー・モリス 著 千葉茂樹 訳 

    あすなろ書房    2018年10月

 

北極圏に住むホッキョクギツネが、シアトルの港に現れたことから、この物語は始まる。主人公は12歳のソロモン(愛称ソル)。2歳のときに母を亡くし、父親と2人きりでシアトルに住んでいる。先住民の血を引くソルは、学校では疎外感を感じ、忙しく働く父とは話す時間もなく、アラスカの祖母から毎週届く便りだけが故郷とのつながりだった。父の働く波止場に白いキツネがいると知ったソルは、ひとりぼっちのキツネと自分を重ねあわせ、心を寄せる。少しずつキツネとの距離を縮めていくソルだったが、ある日、キツネは捕まってしまう。ソルはキツネを故郷のアラスカに戻す決心をするのだった。

 とても透明感のある作品である。文章は簡潔で美しく、凛とした空気感が漂う。悲しみ、孤独、いじめ、差別などが物語に織り込まれているが、白いキツネが鍵となって、それは少しずつ解けていき、心を閉ざしていた主人公と家族はお互いの悲しみに向き合い変わっていく。森でオーロラを眺める場面は、ソルの明るい未来を予感させ、希望が拡がる結末だ。文面から色彩が浮かびあがるような印象があるのは、著者のジャッキー・モリスが絵本作家でイラストレーターであることが大きく影響している。表紙を含めたカラーの挿画は作品のイメージを助け、読者を物語の世界へと一気に誘ってくれるだろう。幅広い対象の子どもに手渡すことができるこの作品は、とても静かで力強い。家族とのつながり、新しい自分、そして本当の居場所への一歩を踏み出す勇気を与えてくれる物語である。

 

ある晴れた夏の朝

小手鞠るい 著  偕成社     2018年8月

 

アメリカには今も、広島、長崎への原爆投下は、当時のやむを得ない正しい判断だったと考える人々がいる。本作では『戦争と平和を考える』というテーマで、アメリカの高校生8人が、地域住民を聴衆として開催した公開討論会が描かれている。広島と長崎への「原爆投下は、ほんとうに必要だったのか」に焦点をあて、肯定派と否定派に分かれてのそれぞれの立場からの主張は、相手の論点を予想し、資料を精査して入念に準備されたものだ。その白熱のディベートでは、太平洋戦争にまつわる重要な史実の多くが語られ、知識を得ることが力となっていくことが伝わる稀有な作品である。公開討論会の実況中継的ともいえる物語は、最後まで緊張感を味わえる臨場感があり、知識欲や論理力を刺激される読書体験となる。子どもたちの視野を広げ、多角的な思考を促す契機として作用する力を持っている。

多様なルーツを持つ人々が暮らすアメリカの高校生たちが、それぞれの視点から自国の原爆投下の是非を語る趣向であるがゆえに、子どもたちに客観的な視座で紹介することができるということも高い評価を得た。     

 巻末に付された関連年表はⅩ線発見から始まり「核に関する出来事」が2017年までピックアップされ、今の時代を見据えて丁寧に作られた作品であることがうかがえる。

 

しあわせの牛乳〈ポプラノンフィクション30生きかた〉 

佐藤慧 著  安田菜津紀 写真  ポプラ社

 2018年3月 

 

近代酪農では、牛は牛舎でシステム化された餌を与えられ、人工授精で出産、搾乳される。搾乳量は多いが3~4年で肉牛へと商品のように扱われる。一方山地酪農を営む岩手県の中洞牧場では、牛は自由に歩き回り夜も外で過ごす。飼い主が生やしたシバを気ままに食べ(冬は夏につくっておいたサイレージを食す)出産も自然に任せ、乳が張ってくると自分から搾乳してもらいに山から牛舎に降りてくる。乳の量は少ないが8~10年は生きられる。 

牛が幸せに暮らす牧場をつくりあげる苦労は多々あった。商業ベースに乗せるには一定の脂肪分が確保されないと価格が半減してしまう。山地酪農では夏場どうしても脂肪分が落ちてしまう。また、新たに販路を拡大する障壁等々もあった。 

中洞さんは幼いころは積極的に勉強するほうではなかったが、目標が定まるとそこに向けて徹底した勉強をし、達成した。そのパワーはものすごい。文章からストレートに伝わってくる。 

人が生きていくためには自然や生き物を大切に扱い感謝することを忘れてはいけない。子どもたちは毎日のように飲んでいる牛乳に関してこのようなことに気づき、考えたことはないだろう。本書は中洞さんの牛への愛情を軸に目標に向かう惜しみない努力が描かれ、生き方とともに国連が提唱するSDGsについても考えさせられる作品ではないか。 

豊富な口絵写真が内容に即して素晴らしい。思わずどんなことが書いてあるのだろうと本書を読むきっかけとなっている。 

 

 

第2回作品賞受賞作を紹介します

『八月の光 失われた声に耳をすませて』

 朽木祥 作  小学館  

 

194586日午前815分、人類史上初の核攻撃が実戦で使用された。ヒロシマの上空約600メートルで炸裂した閃光。七万人もの命を一瞬にして奪った「光」を題材にした連作短編集『八月の光』(偕成社)が出版されたのがフクシマ原発事故で核の脅威を目の当たりにした翌年2012年であった。その後、2編を加え『八月の光・あとかた』として文庫化(小学館文庫)されたのが戦後70年の2015年、さらに本作で少年少女に向けた「八重ねえちゃん」と「カンナ」の2編が加えられ、原爆投下をめぐる7つの短編連作として刊行された。

どの短編にも、そこに生きる人々が情感豊かに丁寧に描かれ、原爆のむごさと人びとの苦しみが幾重にも重なり伝わってくる。一緒に被爆した祖母の弟のことを孫娘が祖母から聞く、あらたに書下ろされた「カンナ」では、核の放射能がどういうものだったのか、丁寧に説明をしている。孫娘の私が見た原爆資料館の出口に飾られた瓦礫の中に咲くカンナの写真に通じるような、表紙絵の満開の桜からカンナへという画が印象的で、新たな装丁も生きている。

世界が忘れてはならない原爆の「失われた声」を子どもたちに伝わるように丁寧に描き、ヒロシマの記憶と記録を、次世代に生きる子どもたちの心に刻みたいと願う作者の強い思いが伝わる作品となっている。

 

『ながいながい骨の旅』

松田素子 文  川上和生 絵 

桜木晃彦 群馬県立自然史博物館 監修 

  講談社 

 

骨のはじまりを約46億年前の地球が生まれた時からたどっていき、胎児の発達と重ねて紹介する絵本。

私たちの体を支えてくれている、骨の成り立ちや重要な役割を知ることができ、地球の自然の摂理が説明されている。人間の骨を中心に人体の進化についても語られ、生き物が陸に上がり、進化が大きく進んだことがわかりやすく伝わる。

左上に本文、右下に時代背景が書かれていて構成がよい。重要なポイントにはより詳しい註釈があり興味深く読める。骨(生き物の進化)という難しいテーマだが、柔らかで親しみやすいイラストによって、内容への理解と興味を抱かせられる点が評価できる。

海で生まれた生物がいかに陸に適応していったのか。「骨をめぐる むかしむかしの大ニュース」という形で歴史的事項のコラムがあり、生き物のつながりを見つめながら、地球の誕生から現在まで、骨がたどってきた歴史をたどっている。参考資料が絵本から専門誌まで掲載され幅広い年齢層の次への興味につながる。

科学的な知識をもって人の体について理解することは、自分自身と他生物とのつながりを意識し環境を大切にすることに直結していく。子どもたちにとって「いのち」を読み取るための有意義な1冊となるであろう。

 

第1回作品賞受賞作を紹介します

『シロナガスクジラ』

 ジェニ・デズモンド 作/福本由起子 訳/

 BL出版   

 

シロナガスクジラは、地球上でいちばん大きな生きもの。世界中の海に生息しているが、実際には、ほとんど目にすることはない。長さは30メートル、重さはカバ60頭分位で、陸上にはシロナガスクジラのように、大きな生きものはいない。生きものの骨は、陸上では、すごい重さを支えることができないからだ。海水の塩のお陰で巨大なクジラは浮くことができる。口は人が50人も入れる位の大きさだ。

本書では、その大きさや生態をわかりやすく対比し、作者独特のコラージュや色鉛筆、水彩などを使った手法の絵で、魅力的に表現している。読者は、登場する男の子に自分を重ね合わせ、まるでその場で経験しているように、興味を持ち楽しむことができる。

作者は乱獲や自然現象の変化で絶滅の危機にある「シロナガスクジラ」を大切にすることを訴え、自然界のあらゆるものを大切にしていくことを本書に託している。子どもから大人まで一緒に楽しみ、考えていきたい絵本である。(鈴木佳代子)

 

『レッド・フォックス-カナダの森のキツネ物語-』

チャールズ・G・D・ロバーツ 作/

チャールズ・リビングストン・ブル 画/

桂 宥子 訳/福音館書店

  

 大自然の懐でたくましく成長していく野生動物の生活を、躍動感あふれる語りくちで物語る動物物語。自然とともに生きていくキツネの姿から読者の興味を自然界へと広げてくれる作品は、児童文学として高く評価できる。

 自然の摂理を本能的に学びながら、度重なる困難を知恵と洞察力で乗り越えていくレッド・フォックスの姿は、生きる意欲を呼び覚ます感動を子どもたちに与えてくれるだろう。読者は、主人公のキツネに寄り添いながら自然の驚異と苛酷さを学ぶことになり、こうした読書体験は読者の心に深く残り、情感を豊かに育ててくれるにちがいない。長く読み継がれてほしい動物物語だ。1905年に出版され、世紀を超えて、今も英語圏で読み継がれている本作品を翻訳し、日本に紹介した功績に感謝したい。

 詩人でもあり写実的動物物語の分野をシートンとともに確立した、「カナダ文学の父」と呼ばれるチャールズ・G・D・ロバーツの作品。   

 

『深く、深くほりすすめ!〈ちきゅう〉  

  世界にほこる地球深部探査船の秘密』 

 山本省三 著/友永たろ 絵/くもん出版  

 

 地球に生きるすべての生きもののために、私たちの地球の内部はどのようになっているのかを調べることが、探査船の使命。探査船〈ちきゅう〉の構造やしくみは一見複雑で難解だが、著者は綿密に調べて内容を自分のものとして把握し、子どもたちにわかりやすくかみ砕いて語ってくれる。挿絵も理解に大いに役立っている。1000m以上のパイプを垂直に海底に下ろすための工夫や引き上げるときの噴出防止装置など科学の最先端技術には目を見張る。パイプが採取した46万年前の地層に付いていた微生物が餌を食べたとは驚きである。

2011年3月11日、東日本大震災の震源付近の地層は、スメクタイトという水分を多く含んだ薄い層であったために、プレートの境目がより滑らかに動いて海面の浅いところまでずれたため、大きい津波となったことが突きとめられた。また最近注目されているメタンハイドレードの掘削には、より新しい技術が必要であると指摘している。

 このような作品を通して知らなかったことを知る喜びが得られ、さらに知的好奇心が広がる。                              

50周年を記念しての特別賞です

『30 代記者たちが出会った戦争-激戦地を歩く-』(岩波ジュニア新書)

     共同通信社会部 編/岩波書店

 

本書は「元日本兵の方たちが生きているうちに、あの戦争のことをしっかり伝えたい」の思いから、戦後70年である2015年に企画された共同通信社会部の連載記事を大幅に書き直したもの。30代の記者たち8人が「①記者が現地に足を運ぶ、②かかわった元日本兵や被害者らの話を聞く、③当時の状況に記者が思いをはせる―を、取材の課題にし(本書 おわりに)」激戦地を取材した。日本兵がどういった状況に置かれ、何を考え、どんなことをしたのか。一般の兵士は無謀な作戦の犠牲になったことも痛感したという。 

これまで語ろうとしなかった人たちからの日本軍の加害の事実も報告されている。

「戦争体験者が今日まで生き、語り、伝え続けたことの尊さを」学んだことも伝えている。戦争を知らない世代から、さらに次の世代へ伝える確かな一冊として評価できる作品である。

 

『明日の平和をさがす本-戦争と平和を考える

     絵本からYAまで 300 -』

 宇野和美、さくまゆみこ、土居安子、西山利佳、野上暁 編著/岩崎書店

 

 2000年から2016年に刊行された「戦争と平和を考える」子どもの本、約5万冊から300冊を厳選したブックガイド。「戦争って何だろう?」、「声なきものたちの戦争」、「伝える人 語りつぐ意思」、「平和をつくるために」など8章に、作家、研究者、図書館司書などが読みどころをしっかりと紹介している。若い世代にも手にとってもらいたいと、元「SEALDs」選書班や「安保関連法に反対するママの会」のメンバーも執筆。「読み継ぎたい平和の絵本」などのコラム18本も掲載している。本の舞台となった地域MAPや時代年表・索引など資料編も参考になる。

戦争のない平和な世界をつくるには、どうすれば良いのか、今こそ「平和」を考えるための本として高く評価された。戦争と平和の本を子どもたちに手渡すときに、そして戦争についての事実を伝えるためにも、「戦争と平和を考える」きっかけとなるブックガイドとして、中学生以上の子どもたちに手渡したい1冊である。